新事業創出へのチャレンジがスタート
発端となったのは、2020年に迎えた富士通フロンテック創立80周年のイベントとして、新任マネージャー15名がチームを組んで新規事業のアイデア募集を行ったことだった。全社から400件を超えるアイデアが寄せられた。社内全体で新規事業のアイデアを募るという活動自体が初めての試みで、この活動を一過性のものにせず、さらに活性化させたいという思いが社内に湧き上がった。そして立ち上げられたのがイノベーション室だった。新たな部署には、新しいことにチャレンジしたいと手を挙げたメンバーが、兼務も含めて12名在籍している。「会社が新しい方向に進もうとしているので、自分も挑戦してみたいと思いました」と話したのは、課長の山田春人だ。これまで自社で扱っていなかった新しい事業領域や商材を生み出して、ビジネスの多角化を目指していく。そのために、富士通フロンテックが持つ様々な強みを活かしていく。新しい領域や未来を切り拓くための組織が船出をした。
新しいスタイルでチームを運営する
新たな部署のミッションは、集められたアイデアを検討し、有望なものを形にすること。新事業のアイデアは80周年イベントの際に集まったものに加えて、新たに全社募集を行って寄せられたものもあり、そこから選りすぐった案の事業化を検討していく。「メンバーはSE、CE、製造技術、事務職など様々なな職種から集まりました。初めて出会うメンバーがテレワークで新しい事業を生み出すという、運営スタイル自体が新しいと思っています」と清川雅美は言う。事業化の検討業務はWEB会議、チャット、掲示板などのツールを駆使しながら進められていく。全員がリアルで顔を合わせる機会はほとんどない。課長の山田などは自宅のある新潟から参加している。アイデアの企画検討においてはメンバー間の上下関係といったものはなく、誰もがフラットな立場から意見を出し合い、企画化を進めて、みんなで試行錯誤する。グループ会社の課長と兼務しているのが東山宣弘だ。「グループ会社では業務も役割も決まっていますが、新しい部署ではみんなが手探り状態。その手探り感を楽しみながら業務に取り組んでいます」
事業化に向けたアクションが進行中
「現在も全社から多くの人が応募してくれています。それだけ会社の将来を考えている人が多い証拠。その人たちの思いを汲み取って形にするのが私たちの使命です」と山田は言う。寄せられるアイデアは現実的なものから突飛なものまで多種多様だ。これを一定のルールのもとで評価して、優れたものを企画化していく。優れたアイデアに関しては、実現の可能性を探るためにお客様や取引先、有識者などへのヒアリングも行っている。しかし、ビジネスとしての可能性やニーズについて、自分たちが想定したものとは異なる答えが返ってくるケースも多い。それが新たな気付きにつながり、少しずつ企画がブラッシュアップされていく。ヒアリングをした相手からは「これはぜひ実現してほしい」と期待する声も多く、メンバーたちの励みにもなっている。そうした中、事業化を前提とした実証実験を取引先に提案している案件も出てきた。「これはある社会的課題を解決するためのビジネスアイデアです。社外秘で内容はまだご紹介できませんが、ぜひ実現したい。自分たちの力量が試されています」と山田は話す。
「0」を「1」にして会社を変えるために
まずは何か1つでも、ゼロから事業を立ち上げるのが彼らの目標だ。しかし、「0」を「1」にする新事業創出は想像以上に厳しいと、メンバーたちは口を揃える。そんな彼らを突き動かす原動力は、会社の未来のために新たな事業の柱を創らなければならないという危機感だ。いま社会が大きな変革期にあり、富士通フロンテックを取り巻く事業環境も大きく変わりつつある。その中で新しく登場した技術を利用して、新たな製品やサービスを立ち上げていこうという意識が全社的にも高まっている。「単に利益追求だけを目的とするのではなく、最近の流れとして、事業が社会課題の解決に貢献することも求められ始めています。そのことを念頭に事業創出を進めていきたい」と東山は話す。今は多くのトライアンドエラーを繰り返し、誰も答えを知らない未来に向けて、走りながら考えていく。自分たちの活動が会社を大きく変革するきっかけになる。挑戦は始まったばかりだ。